アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit
天満のいう"単独で活動している男"は、天満たちのアジトから更に市の中心に近い場所に、活動拠点を持っていた。
決して新しくはない雑居ビルの2階にその事務所を見つけた直江は、階段を上り扉を開ける。と、すぐに受付の机に座っていた男が立ち上がった。
「何じゃ、おんしゃあ」
決して声を荒げている訳ではないのに、迫力のある物言い。恰幅のよい身体にダブルのスーツ、カラーシャツ。
典型的な"その筋"の男だ。
憑依はされていない。ある程度覚悟はしていたから、直江も驚いたりはしなかった。
「天満という男から託ってきた。小松という男に会いたい」
そう言って、封筒を見せた。
「テンマさんね」
男は確認するように言うと、体を揺らしながら直江を受付机の向こうへと案内した。部屋の中は、応接セットなどが置かれていて妙に小奇麗だ。
男がもうひとり、そのソファセットに深々と座っている。こちらもやはりお仲間のようだ。その男の正面に座るように言われたが、遠慮した。
その間に、受付にいた男が隣の部屋へ通じるドアを開けている。
開いたドアの隙間から見えた隣室は、異様だった。
大きな事務机が四台あり、その上にパソコンのモニターがいくつも並んでいた。その前に座るのは、ダブついた服を着た若者たちだ。モニターを見比べながらカチカチとマウス操作をしている。
一番手前のモニター郡の前には、若者の後ろにスーツを着た男がひとり立っていた。携帯電話を片手に何か話をしている。細身の眼鏡をかけた堅めの紺スーツ姿は、丸の内か下手したら霞ヶ関あたりにいてもおかしくなさそうだ。
「1204?ウンウン……どの筋なの?」
言いながら前に座る若者に、株式の銘柄情報をモニターに映させる。
どうやら霞ヶ関ではなく兜町だったらしい。
ヤクザ風の男が傍へ行き低い声で何かを言うと、すぐに電話を切りこちらの部屋へ入ってきた。
「天満の使いだって?」
「ああ、そうだ」
眼鏡の男は少し面倒そうな表情を浮かべると、男ふたりに
「ちょっと出てくる」
と言って、そのまま直江には何も言わずに入り口から出て行ってしまった。
着いて来いということだろうか。
仕方なく直江は後を追った。
階段を降りると、ビルの入り口で男は待っていた。
眼鏡の奥から睨み付けるようにしながら、初めて直江に向き直った。
小松勉(こまつ つとむ)。それがこの男の名だ。
「アンタ、見たことないな。新入りか」
「ああ。入隊してまだ間もない」
「ふうん。名前は」
「橘だ」
小松は直江を上から下までジロジロと見た。
「俳優みたいだな、アンタ。俺はてっきり天満のおやっさんがまた近所の連中に持て囃されて、芸能プロダクションでもはじめたのかと思ったよ」
着いて来るように言うと、通りを歩き始める。
「しかも現代人にしか見えないね」
スタスタと早足で歩きながら、首だけで直江を振り返った。
「現代霊なんだろ。見た目ですぐわかる。街向きだ。本隊にいたのか?あんな何百年も昔のやつらと毎日一緒に居たら、気がおかしくなっちまったろう」
どうも直江を憑依霊だと思っているらしい。
「いや、俺は現代人だ」
直江がそういうと、小松の足がピタっと止まった。
「現代人?」
こちらを見る視線があからさまに警戒している。
「山神の神官としての腕をかわれて入隊した」
「………へえ」
小松は再び歩き始めながら小さく言った。
「最近、現代人が入ってきてるっていうのは本当だったんだな」
その言葉を直江は聞き逃さない。けれど何気ない風を装って尋ねた。
「現代人が何人かいるという話は俺も聞いている。お前も会ったことがあるのか?」
「いや。俺は本隊とは殆ど接触がないからな」
あっさりと否定され、直江の心には失望感を抱く暇すらなかった。
(あのひとは一体どこにいるんだ)
ここまでくると、笑ってしまう。
赤鯨衆へ入る前の方がまだ、近づいているという実感があった。
そこに居ることはわかっているのに、手が届かない。
まるで彼が自分を拒んでいるかのように。
「橘?」
立ち止まってしまった直江を、小松が喫茶店の入り口から呼んでいる。
「……ああ」
沈みかけた思考を持ち上げると、直江も後に続いて入り口へと向かった。
決して新しくはない雑居ビルの2階にその事務所を見つけた直江は、階段を上り扉を開ける。と、すぐに受付の机に座っていた男が立ち上がった。
「何じゃ、おんしゃあ」
決して声を荒げている訳ではないのに、迫力のある物言い。恰幅のよい身体にダブルのスーツ、カラーシャツ。
典型的な"その筋"の男だ。
憑依はされていない。ある程度覚悟はしていたから、直江も驚いたりはしなかった。
「天満という男から託ってきた。小松という男に会いたい」
そう言って、封筒を見せた。
「テンマさんね」
男は確認するように言うと、体を揺らしながら直江を受付机の向こうへと案内した。部屋の中は、応接セットなどが置かれていて妙に小奇麗だ。
男がもうひとり、そのソファセットに深々と座っている。こちらもやはりお仲間のようだ。その男の正面に座るように言われたが、遠慮した。
その間に、受付にいた男が隣の部屋へ通じるドアを開けている。
開いたドアの隙間から見えた隣室は、異様だった。
大きな事務机が四台あり、その上にパソコンのモニターがいくつも並んでいた。その前に座るのは、ダブついた服を着た若者たちだ。モニターを見比べながらカチカチとマウス操作をしている。
一番手前のモニター郡の前には、若者の後ろにスーツを着た男がひとり立っていた。携帯電話を片手に何か話をしている。細身の眼鏡をかけた堅めの紺スーツ姿は、丸の内か下手したら霞ヶ関あたりにいてもおかしくなさそうだ。
「1204?ウンウン……どの筋なの?」
言いながら前に座る若者に、株式の銘柄情報をモニターに映させる。
どうやら霞ヶ関ではなく兜町だったらしい。
ヤクザ風の男が傍へ行き低い声で何かを言うと、すぐに電話を切りこちらの部屋へ入ってきた。
「天満の使いだって?」
「ああ、そうだ」
眼鏡の男は少し面倒そうな表情を浮かべると、男ふたりに
「ちょっと出てくる」
と言って、そのまま直江には何も言わずに入り口から出て行ってしまった。
着いて来いということだろうか。
仕方なく直江は後を追った。
階段を降りると、ビルの入り口で男は待っていた。
眼鏡の奥から睨み付けるようにしながら、初めて直江に向き直った。
小松勉(こまつ つとむ)。それがこの男の名だ。
「アンタ、見たことないな。新入りか」
「ああ。入隊してまだ間もない」
「ふうん。名前は」
「橘だ」
小松は直江を上から下までジロジロと見た。
「俳優みたいだな、アンタ。俺はてっきり天満のおやっさんがまた近所の連中に持て囃されて、芸能プロダクションでもはじめたのかと思ったよ」
着いて来るように言うと、通りを歩き始める。
「しかも現代人にしか見えないね」
スタスタと早足で歩きながら、首だけで直江を振り返った。
「現代霊なんだろ。見た目ですぐわかる。街向きだ。本隊にいたのか?あんな何百年も昔のやつらと毎日一緒に居たら、気がおかしくなっちまったろう」
どうも直江を憑依霊だと思っているらしい。
「いや、俺は現代人だ」
直江がそういうと、小松の足がピタっと止まった。
「現代人?」
こちらを見る視線があからさまに警戒している。
「山神の神官としての腕をかわれて入隊した」
「………へえ」
小松は再び歩き始めながら小さく言った。
「最近、現代人が入ってきてるっていうのは本当だったんだな」
その言葉を直江は聞き逃さない。けれど何気ない風を装って尋ねた。
「現代人が何人かいるという話は俺も聞いている。お前も会ったことがあるのか?」
「いや。俺は本隊とは殆ど接触がないからな」
あっさりと否定され、直江の心には失望感を抱く暇すらなかった。
(あのひとは一体どこにいるんだ)
ここまでくると、笑ってしまう。
赤鯨衆へ入る前の方がまだ、近づいているという実感があった。
そこに居ることはわかっているのに、手が届かない。
まるで彼が自分を拒んでいるかのように。
「橘?」
立ち止まってしまった直江を、小松が喫茶店の入り口から呼んでいる。
「……ああ」
沈みかけた思考を持ち上げると、直江も後に続いて入り口へと向かった。
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アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit