アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit
直江の知る"怨将"は《闇戦国》での天下を取ることが目的であったはずだ。また伊達のように領土を守る為に戦うという選択もあるだろう。赤鯨衆とは後者に近い存在だと、直江は認識していた。
なのに、この男には戦う意志がない?ならば赤鯨衆とは一体なんなのだ。《闇戦国》に参戦している訳ではないのか?
「"赤鯨衆"は侵略者からこの土地を守る為に団結して戦っていると聞いているが」
「………おんしは自分のクニを守る為に赤鯨衆へ来たがか?」
「そうだ」
即答した直江に、天満は顔を覗き込むようにして言った。
「けれど所詮は死に人の理じゃろう。生き人には、生き人の戦い方ちゅうのがあると思うがのう」
「……………」
「出て行けちゅうてるんじゃあないがよ。おんしにまだ帰る場所があるのなら、戻ったほうが───」
「いや」
直江は天満の言葉を遮ってから言った。
「俺に、帰る場所など無い」
言い切った直江の瞳をじっと見つめた天満は、何か感じるものがあったのか、立ち上がって自分の手から軍手を外した。
「ほうか、ならええ。赤鯨衆は行き場のない者たちの居場所となるべきところやき」
直江の肩を叩いてから、畑にいた他の隊士たちを見回す。
「彼らはその赤鯨衆の中ですら、孤立しがちやった者たちばかりちや」
少し遠い眼をしながら、天満は言った。
「どがな場所でもはみ出しもんちゅうのは居るもんがよ。おんしも向こうに居れんくなったらいつでも来りゃあええ」
きっと現代人だと苦労する、と言いながら自分の言葉に頷いている。
直江は少し、戸惑った。天満は直江のことを案じているらしい。
急にこの目の前の、作業服に身を包み顔まで土まみれにして笑っている男に、興味が沸いてきた。
「お前もそうなのか」
「ん?」
「……なぜ居場所がなくなってまで、赤鯨衆に残ろうとする?離れようとは思わないのか」
直江に比べると背の低い天満は、何を言うのか、という顔で直江を見上げた。
「赤鯨衆におられんかったら、生きていけんくなるだけやき。現代社会に、わしのような者の居場所なんてありゃあせん」
「仕方なくいるというのか」
「他に選択肢はないっちゅうことじゃ。わしみたいなのでも引き受けてくれるのは赤鯨衆だけなんちや」
直江はなんだか納得がいかない。心には違和感だけが残った。
「それに、戦以外の部分を引き受ける人間も必要やきのう。まあ、実際のところは役目もロクに果たしちゃあせんがの。特に最近は近所のじいさんばあさん連中のためにばかり働いちょる」
天満は笑顔になって言った。
「これでも霊査能力ちゅうヤツが人よりあるがよ。それでよく年寄連中の相談に乗っちょるんじゃ」
それを聞いてどきりとした。自分が換生者だと気付かれてしまうのではないか。
盗み見た天満の表情に疑うようなものは今のところない。
直江は用心のため、抑えていた自身の気を更に絞った。息を潜める感覚に似ている。窮屈だし疲れもするが仕方が無い。
そっちに集中していたため、次の天満の言葉で再びどきりとした。
「おんしは訛りが出んのう」
日吉砦では誰にも突っ込まれなかったが、この質問にはちゃんと答えを用意してあったのだ。
「しばらく東京に住んでいたんだ。しかし、神官としての修業はちゃんと修めているから心配ない」
「ほう、東京にか。何をやっちょった?」
「不動産関係の仕事を」
「フドウサンか……。カブシキというものは知らんがか?」
「?まあ、人並みには理解しているつもりだが」
「ほいたら、わしらよりは詳しいじゃろう。ひとつ頼まれてくれんがか?」
天満は直江を従えて、建物へと戻り始めた。
「こがな通り、わしらが畑仕事なんぞしてぼーっと過ごしておられるんも、単独で活動しちゅうある男が大金を稼いできゆうからなんじゃ。しかし、わしらが様子を見に行っても、一体何をやっちょるのかさっぱりわからん。教えてもくれんちや」
入り口へ到着した天満は、引き戸へと手をかけた。
「あるもんを渡すついでに、様子を見てきちゃって欲しいがよ」
戸を開け中へ入ると、作業台の上は一新していた。菓子やら小皿やらが並び、皆がそれを囲んでいる。休憩時間のようだ。
「天満さん、このハウスのトマト、今年はよういったね」
「そうやろう。来年こそ市場に出したい思うちょるがよ」
「ほうかほうか、人手が要るときは言うてな」
「何?じーさんが手伝てくれろうか。無理しちょったらいかんちや」
「なんの、まだまだいけるわ」
どうみても最年長の老人が力瘤を作ってみせるものだから、室内は沸き返った。
子供たちもはしゃぎながら天満にまとわりついている。
いずれも老人の孫や近所の子供たちで、近くに託児施設が無い事から、ここで預かって面倒を見ているのだという。
本当に、慈善事業だ。
けれどそのお陰なのか、天満は周囲の人々に本当に慕われている。
「これを渡してきてほしい」
その天満が書類の山積みになった事務机の引き出しから出してきたのは、白い封筒だった。手紙のようだ。
「明日にでも投函しようと思うちょったんじゃが、ちょうどええ。住所はここに書いちゅう」
天満は声をひそめて言った。
「ヤツには全て任せっきりにしちょるき、あまり強くも言えんがよ。けど、あまり良くないことをやりゆうのはわかっちゅう。それがどんくらい危ないがか、教えて欲しいんちや」
直江の肩に手を乗せる。
思わずため息が漏れそうになった。
今日は頼まれ事の多い日だ。
なのに、この男には戦う意志がない?ならば赤鯨衆とは一体なんなのだ。《闇戦国》に参戦している訳ではないのか?
「"赤鯨衆"は侵略者からこの土地を守る為に団結して戦っていると聞いているが」
「………おんしは自分のクニを守る為に赤鯨衆へ来たがか?」
「そうだ」
即答した直江に、天満は顔を覗き込むようにして言った。
「けれど所詮は死に人の理じゃろう。生き人には、生き人の戦い方ちゅうのがあると思うがのう」
「……………」
「出て行けちゅうてるんじゃあないがよ。おんしにまだ帰る場所があるのなら、戻ったほうが───」
「いや」
直江は天満の言葉を遮ってから言った。
「俺に、帰る場所など無い」
言い切った直江の瞳をじっと見つめた天満は、何か感じるものがあったのか、立ち上がって自分の手から軍手を外した。
「ほうか、ならええ。赤鯨衆は行き場のない者たちの居場所となるべきところやき」
直江の肩を叩いてから、畑にいた他の隊士たちを見回す。
「彼らはその赤鯨衆の中ですら、孤立しがちやった者たちばかりちや」
少し遠い眼をしながら、天満は言った。
「どがな場所でもはみ出しもんちゅうのは居るもんがよ。おんしも向こうに居れんくなったらいつでも来りゃあええ」
きっと現代人だと苦労する、と言いながら自分の言葉に頷いている。
直江は少し、戸惑った。天満は直江のことを案じているらしい。
急にこの目の前の、作業服に身を包み顔まで土まみれにして笑っている男に、興味が沸いてきた。
「お前もそうなのか」
「ん?」
「……なぜ居場所がなくなってまで、赤鯨衆に残ろうとする?離れようとは思わないのか」
直江に比べると背の低い天満は、何を言うのか、という顔で直江を見上げた。
「赤鯨衆におられんかったら、生きていけんくなるだけやき。現代社会に、わしのような者の居場所なんてありゃあせん」
「仕方なくいるというのか」
「他に選択肢はないっちゅうことじゃ。わしみたいなのでも引き受けてくれるのは赤鯨衆だけなんちや」
直江はなんだか納得がいかない。心には違和感だけが残った。
「それに、戦以外の部分を引き受ける人間も必要やきのう。まあ、実際のところは役目もロクに果たしちゃあせんがの。特に最近は近所のじいさんばあさん連中のためにばかり働いちょる」
天満は笑顔になって言った。
「これでも霊査能力ちゅうヤツが人よりあるがよ。それでよく年寄連中の相談に乗っちょるんじゃ」
それを聞いてどきりとした。自分が換生者だと気付かれてしまうのではないか。
盗み見た天満の表情に疑うようなものは今のところない。
直江は用心のため、抑えていた自身の気を更に絞った。息を潜める感覚に似ている。窮屈だし疲れもするが仕方が無い。
そっちに集中していたため、次の天満の言葉で再びどきりとした。
「おんしは訛りが出んのう」
日吉砦では誰にも突っ込まれなかったが、この質問にはちゃんと答えを用意してあったのだ。
「しばらく東京に住んでいたんだ。しかし、神官としての修業はちゃんと修めているから心配ない」
「ほう、東京にか。何をやっちょった?」
「不動産関係の仕事を」
「フドウサンか……。カブシキというものは知らんがか?」
「?まあ、人並みには理解しているつもりだが」
「ほいたら、わしらよりは詳しいじゃろう。ひとつ頼まれてくれんがか?」
天満は直江を従えて、建物へと戻り始めた。
「こがな通り、わしらが畑仕事なんぞしてぼーっと過ごしておられるんも、単独で活動しちゅうある男が大金を稼いできゆうからなんじゃ。しかし、わしらが様子を見に行っても、一体何をやっちょるのかさっぱりわからん。教えてもくれんちや」
入り口へ到着した天満は、引き戸へと手をかけた。
「あるもんを渡すついでに、様子を見てきちゃって欲しいがよ」
戸を開け中へ入ると、作業台の上は一新していた。菓子やら小皿やらが並び、皆がそれを囲んでいる。休憩時間のようだ。
「天満さん、このハウスのトマト、今年はよういったね」
「そうやろう。来年こそ市場に出したい思うちょるがよ」
「ほうかほうか、人手が要るときは言うてな」
「何?じーさんが手伝てくれろうか。無理しちょったらいかんちや」
「なんの、まだまだいけるわ」
どうみても最年長の老人が力瘤を作ってみせるものだから、室内は沸き返った。
子供たちもはしゃぎながら天満にまとわりついている。
いずれも老人の孫や近所の子供たちで、近くに託児施設が無い事から、ここで預かって面倒を見ているのだという。
本当に、慈善事業だ。
けれどそのお陰なのか、天満は周囲の人々に本当に慕われている。
「これを渡してきてほしい」
その天満が書類の山積みになった事務机の引き出しから出してきたのは、白い封筒だった。手紙のようだ。
「明日にでも投函しようと思うちょったんじゃが、ちょうどええ。住所はここに書いちゅう」
天満は声をひそめて言った。
「ヤツには全て任せっきりにしちょるき、あまり強くも言えんがよ。けど、あまり良くないことをやりゆうのはわかっちゅう。それがどんくらい危ないがか、教えて欲しいんちや」
直江の肩に手を乗せる。
思わずため息が漏れそうになった。
今日は頼まれ事の多い日だ。
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アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit