忍者ブログ
アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。





back05」≪≪     ≫≫next07
連載Index

 店内に入り案内に従って席につきコーヒーを頼んだところで、ようやく直江は天満からの封筒を小松に手渡すことができた。
 ところが小松はそれをテーブルに置いて、開けようともしない。
「返事を貰うよう言われている」
 と催促してみると、全然別の答えが返ってきた。
「アンタ、訛りがないな。どこの生まれだ」
「……………」
 やはり街に出ている隊士たちは、鋭い。砦にいる者たちとは少し違う緊張感がある。
 本日二度目の質問に、直江は慌てることなく応えることが出来た。
「長いこと東京で働いていたからだろう」
「へえ、何をしてたんだ?」
「不動産関係だ」
 それを聞いた小松は明らかに気色ばんだ。
「投機なんかにも詳しいか」
「……多少ならな」
 小松は急に親しげになって話を進めていく。
「不動産投資に興味を持ってる知り合いがいるんだ。興味ないか」
 そしてここが一番重要だというように、声を低くして言った。
「稼げるぞ」
 資産運用やマネジメント業にも熱心な照弘のお陰で、金融商品、不動産系の投資信託には多少の心得はあった。
 だがもう数年前の知識だから、勘を取り戻すのには時間がかかるだろう。
 しかし敢えてそこには触れずに話を続けることにした。何とか小松自身の情報を引き出したい。
「それは赤鯨衆の活動の一環として言っているのか?」
「いや、個人的なものだ」
 悪びれもせずにそう言う。あきれてしまった。
「個人で金を稼いでいるのか」
 元金が赤鯨衆のものだとしたら、立派な横領ではないだろうか。
「カタいこと言うなよ。おやっさんたちには充分な額を渡してる。残ったものをどうしようが俺の勝手だろ」
 ここにも赤鯨衆のユルさが現れているな、と思った。
「俺がマワしてるカネはさ、赤鯨衆のカネだけじゃあないんだよ。あるツテがあってさ、そいつらのシノギも任されてるワケ」
 先程事務所にいたのは、そのツテ関係の男たちなのだろう。まさかそっちからも横領しているのだろうか。だとしたらもう、赤鯨衆の活動の域を超えている。単なる個人的な、しかも違法な金儲けだ。それとも、その金儲けをも、赤鯨衆は許容しているのだろうか。
 どちらにしても、犯罪に加担する気はない。
「俺は遠慮しておく」
「そうか。欲が無いんだな」
 そうではない。欲の向けどころが小松とは違うのだ。
 逆に言えばこの男の欲は、金に向いているということだろう。目的がはっきりしている分、天満よりも扱いやすいのかもしれない。
 少し、探りを入れてみることにした。
「お前も標準語なんだな」
「……ああ。出身はこっちだが、高校が東京で向こうの寮に入った。関西弁ならともかく、土佐弁じゃあ馬鹿にされるからな」
 あまり思い出したくないのか、口のすべりが悪い。
「赤鯨衆には長いのか」
 話題を変えてみると、今度はぺらぺらと喋り始めた。
「おやっさんほどじゃあない。オレはあの人に拾われたんだ」
 まだ机の上に置かれたままの封筒を、直江に見せる。
「何だと思う?」
 直江が首を振ると、笑いながら言った。
「くっだらない手紙だよ。飯は食ってるかとかそんなことが書いてある」
 手にした封筒でパシパシと掌を打つ。
 おやっさんは俺の親のつもりでいるんだよ、と小松は言った。
 何でも、小松は死んですぐは霊体のまま彷徨っていただけだったそうだ。たまにちょっとした悪さをするような、殆ど害のない地縛霊。けれどある日突然、目覚めると憑依していた。
「このカラダに入った時のことは全然覚えてない。気が付いたらこのナカにいたんだ。困ったよ、ほんと」
 腹を空かしながらとりあえずホームレスのような生活をしていたところ、天満に拾われたそうだ。
「おやっさんはとにかく人が良くてさ。宿無し連中に差し入れなんかもしてたワケ。そんで俺とも知り合ったんだけど、初めて会った一言目がさ、"おんし、一度死んじょったことがあるやろう"だよ」
 その時のことを思い出したのか、本当に楽しそうに笑った。
「赤鯨衆ってのがあるから入れって言われてさ。俺も公園に寝泊りしてたってしょうがないから、仕方なくついてってさ」
 最初は前線付近の補給班に回されたそうだ。
「戦闘なんかに参加したりもしたんだけど、全然ダメ。俺には戦争の才能はないね。まわりの奴らとも全くソリがあわなかったしね」
直江も日吉砦で数日を過ごしただけだが、確かに独特のノリを受け入れるのに手間取った。直江ですらそうなのだから、街育ちの現代っ子には辛いのかもしれない。
「で、おやっさんが見かねて調達部に引っ張ってくれたんだけど、コレがまた笑ったね。調達部とは名ばかりで、なんも調達出来て無いんだよ。あの人、カネを稼ぐ才能ってのが皆無なんだね」
 それは直江にも分かる気がした。天満は間違いなく人は好いのだろうが、商才と人徳というものは全く別のものだ。
「だからオレが稼いでやってるってワケ」
 小松は眼鏡を外すと、ポケットから眼鏡拭きを取り出して拭き始めた。
PR




back05」≪≪     ≫≫next07
連載Index

アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit

01         更新日2009年09月04日
02         更新日2009年09月11日
03  04      更新日2009年09月18日
05  06  07  更新日2009年09月25日
08  09  10  更新日2009年10月3日
11  12      更新日2009年10月9日
13  14  15  更新日2009年10月16日
        










 忍者ブログ [PR]