アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit
小松の手元を見つめながら、直江が尋ねる。
「株式投資で稼いでいるんだな」
先程少し見えたあの隣の部屋が一体どんなものなのかは、なんとなく解っていた。いわゆるデイトレーディングといったような、短期の株式売買を重ねて利益を得る場合に必要な設備だ。
「デイトレっていうよりスイトレってところなんだけどね。もともと赤鯨衆はヤクザのシノギを奪うことで主に資金源としてきてた。合法的に稼ぐことにも挑戦したみたいだけど、殆どうまくいってなかったね」
調達部は大まかに三つの班に別れているのだそうだ。物資の調達、運搬を主に行う隊。合法的に資金を稼ぐ隊。そして非合法の手段で資金を稼ぐ隊。天満の隊はこれにあたる。
「おやっさんのところに来てから色々資料なんかを漁ってたらさ、合法隊が株式の口座を持ってることが分かったんだよ。でも安定株なんかを持ってるだけで、全く活用できていなかった。だからうちの隊で引き継いだんだ」
それでいまや赤鯨衆の資金の殆どを稼ぐまでになったというのだ。小松には相当の才能があるのではないのか。
「そんなんじゃなくってさ、株で安定した収入を得ようと思ったら何よりも資金力。いまや個人投資家が儲けようと思ったところで厳しいってことは市場の流れを見てれば解ったし、特別な情報を手に入れる手段も俺は知ってたから」
「特別な情報?」
「そう。安っぽく言えば裏情報」
仕手筋や投資顧問といった人々が作る人工的な流れは間違いなく存在する。問題はその情報をどの段階で手にすることができるか、だそうだ。
「で、ヤクザに取り入ることにした訳」
最近のヤクザも、楽には稼げなくなっている。そこへ赤鯨衆が現れてシノギを根こそぎ奪っていったせいで、壊滅寸前まで追い込まれていた団体もあったそうだ。
「そこにつけ込んで取り入ったら、うまくいったんだよね。今はある組の幹部連中の資金をまとめて運用してる」
小松は外していた眼鏡を掛けなおした。
「動かす額が半端ないから、ほんのわずかな変動でものすごく損もするしものすごく儲けられる。まじめに働くのが馬鹿みたいに思えるよ」
しかも"裏情報"をかなり早い段階で耳に出来る。彼らの情報網に間違いはないそうだ。
「誰もヤクザを騙そうなんて思わないしね」
だからこそ、一歩間違えればトラブルに巻き込まれかねない。所詮カタギではない訳だし、やっていることもインサイダーと変わりがない。
今は元手が充分にあるのだから、危険なことからは手を引いたほうがいいのではないだろうか。直江は、ただ単に情報を集めるだけならば、もっと他にいい手段を知っていた。
「諜報班を使えばいい」
赤鯨衆の諜報班は、かなり使える者たちだと直江はみている。一蔵からの情報だけでなく、自分の目で確認した機密管理の手順などから、そう判断した。
しかも傀儡子という単独のエージェントが全国規模で展開しているというではないか。彼らを使えばきっと、もっと確実で危険の少ない情報が手に入るのではないか?
「あいつらは戦争のことばっか。金がどれだけ重要なのかわかってないんだよ。馬鹿だよな。この世では金がさえあれば、身分なんて関係なく勝つことが出来るのに」
「……………」
その話の内容はともかく、直江は天満と話していた時と同じような違和感を抱いた。死霊の癖に、何に恨みがあるだとか生前はこうだったといった話がまったく出てこない。
不思議な気分だった。今も生きている普通の人間と話しているようだ。
だから余計に死因に興味が沸いた。
「何故お前はこの世に残ったんだ?」
小松はすぐには答えなかった。
「何でそんなとが聞きたいんだよ」
「興味がある。自分もいつか経験することだ」
小松は視線を彷徨わせながら、苦々しく言った。
「さあな。残ろうと思って残った訳じゃない」
それが本心なのか誤魔化しなのか、直江には判別出来なかった。
「最近のことか」
「……死んでからはもう10年近く経つ」
「10年」
「そう」
眼鏡の奥の瞳が不思議な色を湛えていた。
「バブルと一緒に、オレの命もはじけたのさ」
「株式投資で稼いでいるんだな」
先程少し見えたあの隣の部屋が一体どんなものなのかは、なんとなく解っていた。いわゆるデイトレーディングといったような、短期の株式売買を重ねて利益を得る場合に必要な設備だ。
「デイトレっていうよりスイトレってところなんだけどね。もともと赤鯨衆はヤクザのシノギを奪うことで主に資金源としてきてた。合法的に稼ぐことにも挑戦したみたいだけど、殆どうまくいってなかったね」
調達部は大まかに三つの班に別れているのだそうだ。物資の調達、運搬を主に行う隊。合法的に資金を稼ぐ隊。そして非合法の手段で資金を稼ぐ隊。天満の隊はこれにあたる。
「おやっさんのところに来てから色々資料なんかを漁ってたらさ、合法隊が株式の口座を持ってることが分かったんだよ。でも安定株なんかを持ってるだけで、全く活用できていなかった。だからうちの隊で引き継いだんだ」
それでいまや赤鯨衆の資金の殆どを稼ぐまでになったというのだ。小松には相当の才能があるのではないのか。
「そんなんじゃなくってさ、株で安定した収入を得ようと思ったら何よりも資金力。いまや個人投資家が儲けようと思ったところで厳しいってことは市場の流れを見てれば解ったし、特別な情報を手に入れる手段も俺は知ってたから」
「特別な情報?」
「そう。安っぽく言えば裏情報」
仕手筋や投資顧問といった人々が作る人工的な流れは間違いなく存在する。問題はその情報をどの段階で手にすることができるか、だそうだ。
「で、ヤクザに取り入ることにした訳」
最近のヤクザも、楽には稼げなくなっている。そこへ赤鯨衆が現れてシノギを根こそぎ奪っていったせいで、壊滅寸前まで追い込まれていた団体もあったそうだ。
「そこにつけ込んで取り入ったら、うまくいったんだよね。今はある組の幹部連中の資金をまとめて運用してる」
小松は外していた眼鏡を掛けなおした。
「動かす額が半端ないから、ほんのわずかな変動でものすごく損もするしものすごく儲けられる。まじめに働くのが馬鹿みたいに思えるよ」
しかも"裏情報"をかなり早い段階で耳に出来る。彼らの情報網に間違いはないそうだ。
「誰もヤクザを騙そうなんて思わないしね」
だからこそ、一歩間違えればトラブルに巻き込まれかねない。所詮カタギではない訳だし、やっていることもインサイダーと変わりがない。
今は元手が充分にあるのだから、危険なことからは手を引いたほうがいいのではないだろうか。直江は、ただ単に情報を集めるだけならば、もっと他にいい手段を知っていた。
「諜報班を使えばいい」
赤鯨衆の諜報班は、かなり使える者たちだと直江はみている。一蔵からの情報だけでなく、自分の目で確認した機密管理の手順などから、そう判断した。
しかも傀儡子という単独のエージェントが全国規模で展開しているというではないか。彼らを使えばきっと、もっと確実で危険の少ない情報が手に入るのではないか?
「あいつらは戦争のことばっか。金がどれだけ重要なのかわかってないんだよ。馬鹿だよな。この世では金がさえあれば、身分なんて関係なく勝つことが出来るのに」
「……………」
その話の内容はともかく、直江は天満と話していた時と同じような違和感を抱いた。死霊の癖に、何に恨みがあるだとか生前はこうだったといった話がまったく出てこない。
不思議な気分だった。今も生きている普通の人間と話しているようだ。
だから余計に死因に興味が沸いた。
「何故お前はこの世に残ったんだ?」
小松はすぐには答えなかった。
「何でそんなとが聞きたいんだよ」
「興味がある。自分もいつか経験することだ」
小松は視線を彷徨わせながら、苦々しく言った。
「さあな。残ろうと思って残った訳じゃない」
それが本心なのか誤魔化しなのか、直江には判別出来なかった。
「最近のことか」
「……死んでからはもう10年近く経つ」
「10年」
「そう」
眼鏡の奥の瞳が不思議な色を湛えていた。
「バブルと一緒に、オレの命もはじけたのさ」
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アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit