アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit
まるで悪夢のようだった。
「どうすんすか、小松サン」
何台ものモニターの前で退屈そうにしている若者達が、非難めいた視線をぶつけてくる。
「……くそっ……!」
まるで得体の知れない怪物を相手にしているようだ。
いつものように手に入れた情報頼りで動いていたら、急に損が嵩み始めた。多分情報そのものが、どれもおかしいのだ。そうとしか思えない。
仕方なく、己の裁量で取引を続けてみたら、ますますドツボに嵌った。自信はあったのに。今までいったい何を学んできたのだろうと思う程に、打つ手打つ手が全部裏目に出る。もうどうしていいのかも分からず、今は全ての取引から手を引いている状態だ。
けれどこのまま何もせずにいたところで損失は埋まらない。
(どうしたらいい……っ)
とにかくもう一度しっかりとした情報を手に入れるルートを確保しなくてはならない。もっと質のいい、ランクの高い情報を。
しかし。
「……ヒロキのヤツはいったいどこへ行ったんだ………っ!」
ここ数日、ヒロキとは連絡が取れていなかった。
イラつきながらケイタイを取り出すと、リダイヤルを検索する。が、発信ボタンを押す前に、騒々しい物音が入り口のほうから聞こえてきた。
「貴士さん、まずいですよ」
隣室でいつものように待機していた男ふたりの慌てたような声が聞こえてくる。
「ここかぁ~!?」
乱暴にドアが開いて、入ってきたのは見覚えのある短茶髪。今まさに電話をかけようとしてた相手、ヒロキだった。
「ヒロキ……っ!お前いったいなにやってたんだっ!」
「あぁ?」
怒鳴りつける小松にヒロキは不審な目を向ける。
「もしかして、あんたか。俺に催眠術をかけたってヤツは」
「…………あ?」
小松は気づいてしまった。
ヒロキの気配がどこにも感じられない。憑依が解かれてしまっている。
「どういうことだ……いったい……」
ヒロキが勝手にいなくなる事態は想定外だった。小松は放心したまま動けない。
「ちょっと、顔かしてよ」
そんな小松に、貴士は何故か笑みを浮かべて言った。
「俺、やられたらやり返すがモットーだからさ。やられたまま黙ってる訳にはいかないんだよ」
貴士がポケットから光るものを取り出す。
それはバタフライナイフだった。
そこで始めて小松は、自分の身に危険が迫っていることに気づいた。
モニター前で興味深々にやりとりを眺めていた若者達が、次々と部屋から逃げ出して行く。
「あんたにわかる?身体を他人に乗っ取られた感覚。レイプされたみてーで、すっげーきもちわりいの」
「何する気だ」
「さあ、どうしよう。何して欲しい?」
じりじりと歩み寄ってくる。
「た、貴士さん……」
貴士の後ろに立つ二人組も、鈍く光るナイフをみて、青くなっている。
と、そこでまた入り口の方からドアの音がした。
おろおろしている男ふたりをかき分けるようにして、作業着姿の男が現れる。
「そこまでだ」
天満が、小松と貴士の間に立ちはだかった。
「何だ、あんた」
「おやっさん……」
貴士の持つナイフの切っ先が、天満に向けられる。
しかし天満にそれを恐れる様子は無い。
「こっちが許可を出しゆうまでは、小松には手出しをせん約束じゃあなかったが?」
「そんなもん知らねーよ」
「まあいい。今しがた、この件についてはお開きとした」
「なに?」
「計画完了、おんしんとこの人間と話がついたちゅうことじゃ。さあ、出て行ってもらおうかの」
「んなもん、俺には関係ないね」
貴士は刃を更に天満の近くへ突き出した。
「あんたの後ろで震えてるそいつを差し出さない限り、引き下がる気はねえよ」
天満が振り返ると行きたくないとばかりに小松は首を振る。向き直った天満は自らナイフの前へ顔を近付けた。
「ならばこの小っこい刀を田中ちゅう男に向けて交渉するといい」
「………親父さんと話したのか」
「ほうじゃ。全てのことはあん人と話をして決着がついとる」
「……………」
さすがの貴士も田中には逆らえないようだ。
「行きましょう」
男たちに促されて、仕方なく貴士は出て行った。
「これで終わりにはしないからな」
不気味な笑みと、捨てゼリフを残して。
「どうすんすか、小松サン」
何台ものモニターの前で退屈そうにしている若者達が、非難めいた視線をぶつけてくる。
「……くそっ……!」
まるで得体の知れない怪物を相手にしているようだ。
いつものように手に入れた情報頼りで動いていたら、急に損が嵩み始めた。多分情報そのものが、どれもおかしいのだ。そうとしか思えない。
仕方なく、己の裁量で取引を続けてみたら、ますますドツボに嵌った。自信はあったのに。今までいったい何を学んできたのだろうと思う程に、打つ手打つ手が全部裏目に出る。もうどうしていいのかも分からず、今は全ての取引から手を引いている状態だ。
けれどこのまま何もせずにいたところで損失は埋まらない。
(どうしたらいい……っ)
とにかくもう一度しっかりとした情報を手に入れるルートを確保しなくてはならない。もっと質のいい、ランクの高い情報を。
しかし。
「……ヒロキのヤツはいったいどこへ行ったんだ………っ!」
ここ数日、ヒロキとは連絡が取れていなかった。
イラつきながらケイタイを取り出すと、リダイヤルを検索する。が、発信ボタンを押す前に、騒々しい物音が入り口のほうから聞こえてきた。
「貴士さん、まずいですよ」
隣室でいつものように待機していた男ふたりの慌てたような声が聞こえてくる。
「ここかぁ~!?」
乱暴にドアが開いて、入ってきたのは見覚えのある短茶髪。今まさに電話をかけようとしてた相手、ヒロキだった。
「ヒロキ……っ!お前いったいなにやってたんだっ!」
「あぁ?」
怒鳴りつける小松にヒロキは不審な目を向ける。
「もしかして、あんたか。俺に催眠術をかけたってヤツは」
「…………あ?」
小松は気づいてしまった。
ヒロキの気配がどこにも感じられない。憑依が解かれてしまっている。
「どういうことだ……いったい……」
ヒロキが勝手にいなくなる事態は想定外だった。小松は放心したまま動けない。
「ちょっと、顔かしてよ」
そんな小松に、貴士は何故か笑みを浮かべて言った。
「俺、やられたらやり返すがモットーだからさ。やられたまま黙ってる訳にはいかないんだよ」
貴士がポケットから光るものを取り出す。
それはバタフライナイフだった。
そこで始めて小松は、自分の身に危険が迫っていることに気づいた。
モニター前で興味深々にやりとりを眺めていた若者達が、次々と部屋から逃げ出して行く。
「あんたにわかる?身体を他人に乗っ取られた感覚。レイプされたみてーで、すっげーきもちわりいの」
「何する気だ」
「さあ、どうしよう。何して欲しい?」
じりじりと歩み寄ってくる。
「た、貴士さん……」
貴士の後ろに立つ二人組も、鈍く光るナイフをみて、青くなっている。
と、そこでまた入り口の方からドアの音がした。
おろおろしている男ふたりをかき分けるようにして、作業着姿の男が現れる。
「そこまでだ」
天満が、小松と貴士の間に立ちはだかった。
「何だ、あんた」
「おやっさん……」
貴士の持つナイフの切っ先が、天満に向けられる。
しかし天満にそれを恐れる様子は無い。
「こっちが許可を出しゆうまでは、小松には手出しをせん約束じゃあなかったが?」
「そんなもん知らねーよ」
「まあいい。今しがた、この件についてはお開きとした」
「なに?」
「計画完了、おんしんとこの人間と話がついたちゅうことじゃ。さあ、出て行ってもらおうかの」
「んなもん、俺には関係ないね」
貴士は刃を更に天満の近くへ突き出した。
「あんたの後ろで震えてるそいつを差し出さない限り、引き下がる気はねえよ」
天満が振り返ると行きたくないとばかりに小松は首を振る。向き直った天満は自らナイフの前へ顔を近付けた。
「ならばこの小っこい刀を田中ちゅう男に向けて交渉するといい」
「………親父さんと話したのか」
「ほうじゃ。全てのことはあん人と話をして決着がついとる」
「……………」
さすがの貴士も田中には逆らえないようだ。
「行きましょう」
男たちに促されて、仕方なく貴士は出て行った。
「これで終わりにはしないからな」
不気味な笑みと、捨てゼリフを残して。
PR
アンディスカバード エクスプロイト
undiscovered exploit